こういう真っ白な世界というのは何ともいえず落ち着きます。
夜更けに一人歩いていると、歩く自分雪を踏む音だけが響くので、
足を止めて、息を殺すと、全く音のない白と黒の世界に一人自分がいるのに気がつきます。
風のない日には、私が足を止めている限りはそんな空間が永遠に続く確信さえ覚えます。
再び歩き始めるのは、高架の上をどこからか来た電車がゆっくりと通り過ぎて行くからで、
電車が過ぎるのを確認して、また歩き始めるのです。

外は寒いから、朝、もう起きなくちゃ起きなくちゃ、と思いながらも、
うとうととしている時間が幸せです。
こういう時間も無駄ではなく(本当?)、私はテレポテーションの秘術を会得しました。
つまりどうすればいいのかというと、これはとても言葉では説明できません。
簡単に言えば、今の風景と別の風景をかちっと合わせる感じです。
夢の中で、ああ、なるほど、こういう原理だったのかと納得したところで目が覚め、
時計を見て、がう!と叫んで駆けだしていく毎日です。

千歳空港から乗った快速エアポートの中は暖かく、満席なのに静かなのです。
雪が音を吸収する力は、電車の中にまで及ぶのです。
困ったのは、座っている私の前に立っていた中学生くらいの男の子のチャックが全開で、
目のやり場に苦労したことです。
だから外の窓の外の風景ばかりを見ていました。
札幌に近づくにつれて雪はだんだん激しくなり、
その後3日ばかり降り続いて世界は真っ白になりました。
夜更けの道に一人立って音のない世界に耳を澄ましていると、
このまま凍って死んじゃってもいいなあと思います。