家の前に繋がれている大家さんの飼い犬のリキが異常に大仰に吠えたてるので何事かと思い、戸を開けてリキ小屋を伺うと、リキは背後から茶色の雄犬に乗られて交尾を迫られている最中なのであった。ちなみにリキは十歳を超した老雄犬である。リキはなんとも、哀れな情けない顔をしてきゅんきゅん鳴いていたのだが、挑んだ雄犬の欲情が満たされたのかあるいはリキの抵抗が功を奏したのか、しばらくたつと雄犬は離れてどこかに行ってしまった。リキは目をぱちぱちさせながらその場に座り込んでいた。一緒に目撃した居候K氏は、哀れだ、哀れだ、僕なら絶対いやだ、屈辱・嫌悪感・驚きの混じった最悪な気分に違いない、と言う。じゃあ後でブラッシングをして慰めてあげよう、と私が言うと、K氏が、それはやめた方がいい、今はそっとしておいてほしい気分だろう、と答えたのでそれに従ってなにもしなかった。数時間後に家の外に出るついでにリキ小屋をのぞくと、リキは柵の隙間から鼻の先だけを出して、中空をぼんやりと見つめていた。