ユダヤの人々の戒律には、神の名をみだりに口にしてはならない、というものがある。昔のユダヤ人は、過越しの祭の日の神殿の中でのみ、神の名を口にすることが許された。ヘブライ語は子音のみによって表記されるものであり、神はYHWHと表された。しかし、ローマ帝国によって第二神殿を破壊されてからは、神の名を声に出して呼ぶ ことが全く出来なくなり、神の名YHWHの音を知るユダヤ人はいなくなってしまった。長い時を経てプラハに現れた高名なラビは、しかしながら、その呼び方を知っていたという。そして、土塊から作った人型にYHWHの名を吹き込み、生くるものにした。
これが名高いゴーレムである。


ユダヤ人の生活―マゾッホ短編小説集 -- L・v・ザッハー=マゾッホ (著), 中沢 英雄 (翻訳) の脚注より

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冷房装置の夏が来たというのに扇風機しかないから、一日中水風呂に入って過ごす。夕方に大家さんが、お風呂上がりにでも食べなさい、といって、すいかを一切れくれたから、お風呂の合間にさくりと囓った。さもなければ、西日が畳の上を動いていく様を目で追う。
近所の子供のはしゃぎ声が、大家の飼っている犬の声が、私の部屋の外で発生して、臆面もなく進入してくるのを、為すすべもなく受け止める。
気圧が低いから頭が痛む。
こうして横たわっているうちに時間は過ぎ去って、結局なにもできなかったと疲れた心のまま死んでいくのだろう。